旅客船いえしま旅客船ニューぼうぜ衝突事件 平成2年3月30日 神戸地方海難審判庁

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昭和63年神審第54号

旅客船いえしま旅客船ニューぼうぜ衝突事件

言渡年月日 平成2年3月30日

審 判 庁 神戸地方海難審判庁(今橋勝、藤井春三、松井武)

理 事 官 黒田和義

損 害

い え し ま−船首部左舷側に小凹損

ニューぼうぜ−船尾部右舷側外板に破口、旅客1人死亡・22人が負傷

原 因

ニューぼうぜ−運航管理不適切、狭視界時の航法不遵守(主因)

い え し ま−運航管理不適切、狭視界時の航法不遵守(一因)

主 文

本件衝突は、ニューぼうぜの運航管理が適切に行われず、同船の視界制限状態における運航が適切で

なかったことに因って発生したが、いえしまの運航管理が適切に行われず、同船の視界制限状態におけ

る運航が適切でなかったこともその一因をなすものである。

受審人Dの五級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。

受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理 由

(事実)

船 種 船 名 旅客船いえしま

総 ト ン 数 259トン

機 関 の 種 類 ディーゼル機関

出 力 1,213キロワット

受 審 人 A

職 名 船長

海 技 免 状 五級海技士(航海)免状(旧免状就業範囲)

指定海難関係人 B社

船 種 船 名 旅客船ニューぼうぜ

総 ト ン 数 62トン

機 関 の 種 類 ディーゼル機関

出 力 411キロワット×2

受 審 人 D

職 名 船長

海 技 免 状 五級海技士(航海)免状

指定海難関係人 E社

事件発生の年月日時刻及び場所

昭和62年12月27日午前9時27分

姫路港飾磨区

第1 指定海難関係人B社

1 沿革、事業内容及び組織

指定海難関係人B社は、資本金7,325万円で、昭和17年7月に成立し、兵庫県飾磨郡家島

町に本店を、姫路市に本社、事務所及び営業所をそれぞれ設置し、同町の真浦、宮及び男鹿にそれ

ぞれ代理店を開設して、海上運送法による一般旅客定期航路及び同不定期航路各事業のほか売店、

船内及び発着場における食堂の経営等を行っており、Dが代表取締役社長、Gが専務取締役にそれ

ぞれ選任され、G専務取締役が総務部長を兼務して総務課及び経理課を統括し、同60年10月総

務課長Hを、課長兼務のまま運航管理者に選任して姫路営業所に常駐させ、その下に運航管理補助

者2人を配置したほか、取締役Iを副運航管理者として真浦代理店に配置していた。

2 航路、就航船舶及び運航時間等

定期航路は、家島諸島家島の真浦から同島宮及び男鹿島北西岸のタテノ浜を経由して姫路港飾磨

区飾磨岸壁基部の専用ふとうに至る間で、片道約1時間で往復しており、いえしまをこれに当て、

予備船として第八家島丸を保有し、15人の船員を雇用しており、盆の繁忙期には増便するものの、

8月下旬から翌年7月初旬までは、毎日5便を定時に運航し、第2便往航の姫路港着予定時刻が午

前9時32分で、ニューぼうぜの同便着時刻とは5分の差があった。

3 運航基準

B社は、航海の安全を確保するため、運航管理規程、同規程に基づく運航基準、作業基準及び事

故処理基準をそれぞれ作成していたが、運航基準経路については、往復航とも飾磨航路に沿う針路

で出、入航するようにせず、直接飾磨西防波堤付近から出、入航する経路を設定し、これを遵守さ

せていたため、飾磨東、西南防波堤間の関門で、出、入航船の進路と交差し、運航時間帯によって

は、他社旅客船の入航と競合し、高速力のまま著しく接近するおそれがあった。

4 本件発生前の運航管理の実態

B社は、関係当局等によって開催される運航管理者及び乗組員のための研修会等には船員も参加

させ、幹部船員には運航管理規程等を配布し、社内で船員全員を参加させて安全衛生会議と称する、

安全を確認させる会議を適宜の間隔で開催して、一応安全運航に留意してはいたものの、規程を細

分して規定した狭視界時の運航基準の適用については、航行中、視程を具体的に確定することが困

難であり、かつ、短時間の航海であったことから、気象情報の収集を励行し、狭視界となっている

とき、あるいはそのおそれがあるときには、定時連絡などの際、運航状況を十分に把握し、同基準

遵守を容易にさせる情報を与えるべきところ、これを船長の判断のみに任せていた。

第2 E社

1 沿革、事業内容及び組織

E社は、資本金900万円で、同41年4月に成立し、本店を家島町防勢に、営業所を本店及び

姫路市にそれぞれ設置した、海上運送法による一般旅客定期及び同不定期各航路事業並びに両事業

に付帯関連する事業を行っており、Fが代表取締役社長、Jが専務取締役にそれぞれ選任され、ニ

ューぼうぜを定期航路に当て、予備船として第十一ぼうぜ丸を保有し、8人の船員を雇用しており、

同61年運航管理者に選任されたJ専務取締役が姫路営業所長を兼務し、本店に配置された運航管

理補助者2人、姫路営業所に配置された副運航管理者及び運航管理補助者各1人をそれぞれ統括し

ていた。

2 航路、運航の時間及び便数等

定期航路は、防勢島防勢からタテノ浜を経由して姫路港飾磨区飾磨岸壁基部の専用ふとうに至る

間で、毎日4便を片道約50分で運航しており、第2便往航の姫路港着予定時刻が午前9時27分

で、いえしまの同便と競合していた。

3 運航基準

E社は、航行の安全を確保するため、運航管理規程、同規程に基づく運航基準、作業基準及び事

故処理基準をそれぞれ作成していたが、運航基準経路については、往復航とも、飾磨航路に沿う針

路で出、入航するようにせず、直接飾磨西防波堤付近から出、入航する経路を設定し、これを遵守

させていたため、飾磨東、西南防波堤間の関門で、出、入航船の進路と交差し、運航時間帯によっ

ては、他社旅客船の入航と競合し、高速力のまま著しく接近するおそれがあった。

4 本件発生前の運航管理の実態

E社は、ほぼ毎月1回船員を防勢営業所に集め、短時間安全会議と称する安全運航を確認させる

集会を行い、荒天が予想される場合、気象情報の収集に十分留意していたものの、視程を細分して

規定した狭視界時の運航基準の適用については、航行中、視程を具体的に確定することが困難であ

り、かつ、短時間の航海であったことから、気象情報の収集を励行し、狭視界となっているとき、

あるいはそのおそれがあるときには、定時連絡などの際、運航状況を十分に把握し、同基準遵守を

容易にさせる情報を与えるべきところ、これを船長の判断のみに任せていた。

第3 いえしま及びニューぼうぜの来歴及び一般配置等

いえしまは、同57年12月に進水した全長42.71メートル幅8.20メートル深さ3.19メ

ートル、最大搭載人員564人の平甲板船尾甲板型鋼製旅客船で、上甲板上が船首の方から順に甲板長

倉庫、錨鎖庫、荷物倉、長さ19.70メートルの二等船室、機関室口囲壁、荷物倉及び操舵機室とな

っており、遊歩甲板上には、二等船室の上に一等船室、その後方に多数のいすを設けた立席兼遊歩甲板

がそれぞれ設置され、一等船室の上が船橋及び船員室となっていた。

ニューぼうぜは、同59年4月に進水した全長26.35メートル幅5.50メートル深さ2.31

メートル、最大搭載人員273人の遊歩甲板付1層甲板型FRP製旅客船で、上甲板下が船首の方から

順に船首倉庫、長さ約13メートルで舷窓が上甲板上となっている第1客室、清水タンク、燃料油タン

ク、機関室、船尾倉庫及び操舵機室となっており、上甲板上には、第1客室の天井、上甲板立席及び洗

面所がそれぞれ設けられ、第1客室前部の上に船橋、その後方に船尾まで第2客室及び遊歩甲板兼立席

がそれぞれ設置されていた。

第4 本件発生に至る経過及び結果

いえしまは、受審人Aほか5人が乗り組み、同62年12月27日午前8時22分ごろ第1便復航の

運航を終え、家島町真浦の専用岸壁に横着け係留し、その後旅客を乗せ、同時27分第2便往航の定刻

となったので、船首1.30メートル船尾2.80メートルの喫水をもって発航しようとしたとき、急

に霧となって視界が著しく狭められ、A受審人は、I副運航管理者と協議のうえ出航を見合わせたが、

間もなく霧が晴、視程が1海里ばかりとなったことから、航海灯を点じ、同時33分発航し、宮に寄せ

たのち、タテノ浜に向かった。

同8時50分ごろA受審人は、男鹿島灯台から北西微北(磁針方位、以下同じ。)1.1海里ばかり

のタテノ浜の専用桟橋に入船に左舷側を係留のうえ旅客を乗せ、真浦からの旅客の合計が172人とな

り、定刻から4分遅れの同時52分ごろ一等航海士Kを操舵に当て、解らんしたのち舵と機関を使用し、

後進しながら右回頭を行い、そのころ、タテノ浜のニューぼうぜ専用桟橋に向けて入航中の同船を認め、

同時54分ごろ北西方に向首したとき、機関を13.1ノットばかりの半速力前進にかけ、同時56分

半ごろ北2分の1東の針路とし、姫路港に向け北上した。

A受審人は、同8時57分半ごろ男鹿島灯台から北30度西1.6海里ばかりの地点で、針路を姫路

港広畑航路第1、2号両灯浮標のほぼ中央に向首する北48度東に定め、機関を14.6ノットばかり

の全速力前進にかけ、操舵をK一等航海士から甲板員Lに交代させて続航し、姫路港着時刻が遅れるこ

とを気にかけ、同時59分ごろ、宇和島33メートル頂を右舷側正横380メートルばかりに通過した

とき、機関の毎分回転数を10回転上げて15ノットばかりに増速し、そのころ、右舷船首方向1海里

ばかりに先航する関西急行フェリーのフェリーボートを認め、同9時ごろ右舷船尾2点4分の1約1、

350メートルに北上中のニューぼうぜを再び認めた。

同9時3分ごろA受審人は、大島を右舷側正横方向1.6海里ばかりに通過したとき、乗客数を報告

するため、事務長に命じてI副運航管理者に無線電話で連絡させ、その際、姫路港着が1、2分遅れる

かもしれない旨も連絡させ、同副運航管理者からは、気象情報について何らの連絡もなかったことから、

霧模様の天候で視界がやや狭められていたが、姫路港が霧で視界が著しく狭められていることを知らな

いまま進行中、同時14分少し前、広畑航路第2号灯浮標を右舷側80メートルばかりに通過したとき、

ほぼ正船尾1,400メートルばかりのところにニューぼうぜを認め、その後北47度東の針路で進行

し、霧が陸岸の方から押し寄せていたことから、間もなく、K一等航海士を再び操舵に当てるとともに、

同時14分半少し過ぎ、機関を半速力前進とし、霧中信号の吹鳴を開始して続航したところ、3海里レ

ンジにしたレーダーの映像では、飾磨東、西両防波堤間の関門が明確に分離されていなかったので、い

つものように西防波堤に接近してから同関門を通過することに不安を感じ、これを広く見られるように

してから入航態勢にしようとし、同時18分少し過ぎ、飾磨航路第1号灯浮標から南56度西1,83

0メートルばかりの地点で北56度東の針路に転じたころ、ニューぼうぜの映像を右舷船尾4分の3点

1,250メートルばかりに認め、霧となって視界が著しく狭められたことから、機関を11.7ノッ

トばかりの微速力前進とした。

A受審人は、運航基準で、視程が500メートル以下となった場合には基準航行を中止し、そのとき

の状況に適した安全な速力とするとか、機関を停止のうえ航路外に錨泊すること、更に視程が400メ

ートル以下となったときには、航行を中止して停止または航路外に錨泊することなど規定されていたが、

前路には航行中の船舶を認めず、ニューぼうぜも減速して自船に随航するものと思ったことから、同規

程を遵守することなく、過大な速力で進行した。

同9時23分半少し前、A受審人は、飾磨航路第2号灯浮標を右舷側280メートルばかりに通過し、

そのころ、1.5海里レンジにしたレーダーで相手船の映像を左舷船尾2分の1点750メートルばか

りに認め、同船との間隔が顕著に縮まっていたが、前記関門の通過及び同関門からの出航船の有無に気

を奪われ、これに気づかず、間もなく飾磨航路に入り、斜航して同航路東側線が近くなった同時25分

少し前、飾磨新西防波堤灯台から南19度東500メートルばかりのところで左舵を少しとらせ、その

後舵を中央に戻させたりして徐々に回頭し、同側線から少しはみ出したが、同時25分半少し過ぎ、同

灯台から南東330メートルばかりの地点で、北微西2分の1西に転針して再び同航路に入ったとき、

8ノットばかりの極微速力前進とし、ニューぼうぜの映像を左舷正横後4分の3点440メートルばか

りに見る態勢となったことから、そのまま続航すれば急速に著しく接近するおそれがあったが、依然自

船が先航できるものと思い、直ちに機関を停止し、著しく接近することを避けることなく、同方向に向

首したまま進行中、同時26分ごろ同映像を左舷正横後約1点半300メートルばかりに認め、K一等

航海士に「左後方からニューぼうぜが来るぞ。」と知らせ、レーダーをのぞいたり、肉眼で相手船を見

つけようとしているうち、ようやく衝突の危険を感じ、同時27分少し前、機関停止を令したとき、左

舷側至近距離に迫った相手船の右舷側を認め、全速力後進を令したが、同9時27分飾磨新西防波堤灯

台から東北東150メートルばかりの地点で、原速力、原針路のままのいえしまの船首左舷側が、ニュ

ーぼうぜの船尾右舷側に後方から2点4分の3ばかりの角度で衝突した。

当時天候は霧で、風はほとんどなく、潮候はほぼ低潮時で、視程は50メートルばかりであった。

A受審人は、スラスター及び機関を種々に使用して同船に接近したところ、自力航行が可能であるこ

とが分かったので、関係先に電話連絡を行ったのち、同船をエスコートして飾磨岸壁に向かった。

また、ニューぼうぜは、受審人Dほか2人が乗り組み、同日午前8時半ごろ第1便復航の運航を終え、

防勢島北西岸の防勢港専用桟橋に横着け係留し、M(当時2才)ほか98人の旅客及び手荷物6個を載

せ、船首1.00メートル船尾0.82メートルの喫水をもって、タテノ浜に寄港したのち姫路港に向

かうつもりで、第2便往航定刻の同時40分離桟した。

D受審人は、気象情報を収集しておらず、発航時格別視界が狭められているとも思わなかったので、

海上濃霧警報が発表されていることを知らずに進行し、同8時52分ごろ前路に離桟中のいえしまを認

め、同時55分男鹿島灯台から北西微北4分の1北2,100メートルばかりのタテノ浜の専用桟橋に、

定刻より3分遅れて左舷側を入船着けに係留し、旅客12人を乗せ、同時58分ごろ自ら操舵操船に当

たって離桟のうえ、機関を短時間後進にかけるとともにスラスターをかけ、回頭して微速力前進とした

のち、徐々に増速して14.9ノットばかりの全速力前進とし、同9時ごろ同灯台から北西微北2分の

1北1.3海里ばかりの地点で、北微東4分の3東に定針したところ、右舷船首4分の1点1,350

メートルばかりに北上中のいえしまを再び認め、姫路港入航の際には、平素、自船の到着が相手船より

遅くなっていたので、今回も同船が先航するものと思って続航した。

D受審人は、同9時1分半少し過ぎ、宇和島33メートル頂から西2分の1北200メートルばかり

の地点で、針路を姫路港広畑航路第1号及び第2号両灯浮標のほぼ中央に向首する北東に転じ、機関長

Nと操舵を交代し、間もなく、姫路営業所から「姫路港内は霧となっている。気をつけて運航して下さ

い。」との無線電話による連絡を受け、姫路港では霧となっていることを初めて知り、「了解した。」と

返事をし、もや気であったが、そのころいえしまを左舷船首半点1,350メートルばかりに認めてお

り、同連絡をさして気に止めていなかった。

同9時16分半少し過ぎ、D受審人は、広畑航路第1号及び第2号両灯浮標間のほぼ中央を通過した

とき、針路をいつものように飾磨新西防波堤灯台の南方330メートルばかりのところに向首する北5

0度東に転じ、いえしまをほぼ正船首1,320メートルばかりに認めたほか、右舷船首1点4分の1

約870メートル及び同方向2点800メートルばかりにいずれも錨泊中の総トン数1,500トンば

かりの貨物船を認め、他には船舶が見当たらなかったことから、そのまま続航中、いえしまが徐々に右

方に替わり、間もなく、陸岸の方から押し寄せた霧で視界が著しく狭められ、同船が見えなくなった。

D受審人は、運航基準で、視程が500メートル以下となった場合には基準航行を中止し、そのとき

の状況に適した安全な速力とするとか、機関を停止のうえ航路外に錨泊すること、更に視程が400メ

ートル以下となったときには、航行を中止して停止または航路外に錨泊することなどが規定されていた

が、いえしまのほかには気にかかる他船が見当たらなかったので、同規程を遵守することなく、また、

いえしまの動向に留意し、霧中信号の吹鳴を開始するとともに、大幅に減速して安全な速力で運行する

こともなく、平素霧となっても減速せずに航行していたことから、今回も無難に航行できるものと考え、

レーダーのレンジを4海里にしたり、1海里にしたりして相手船の映像を見ただけで同船も減速しない

ものと思い、その方位が徐々に右方に替わりながら顕著に接近する状況となったことに留意せず、霧中

信号を吹鳴することも、安全な速力とすることもなく続航した。

同9時26分少し前、D受審人は、飾磨新西防波堤灯台から南微西360メートルばかりの地点に達

し、相手船の映像を右舷船首4分の3点340メートルばかりに見る態勢となり、これと著しく接近す

ることが避けられない状況となったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて

ゆきあしを止めることなく、左舷を10度ばかりにとらせ、除々に回頭して飾磨岸壁南東端付近に向首

する北微東4分の1東の針路に転じ、依然いえしまが先航するものと思い、著しく過大な速力で進行中、

同時27分少し前、相手船の霧中信号を聴取して前路を見たとき、右舷船首至近距離に相手船の左舷側

を認めたが、何ら措置するいとまなく、ほぼ原針路、全速力のまま、前示のとおり衝突した。

D受審人は直ちに機関停止とし、N機関長及び一等航海士Oに命じて旅客の安否及び船体損傷の状態

を調査させる一方、無線電話でJ運航管理者に報告する等の措置を執り、自力航行が可能であったので、

間もなく飾磨岸壁6号に向かった。

衝突の結果、いえしまは、左舷側船首材付近に小凹損を生じ、ニューぼうぜは、船尾右舷側外板に上

甲板から下方へ約1.5メートルにわたり、上甲板のところが約2.5メートルのくさび状の破口を生

じ、同甲板右舷側湯沸室及び中央部の洗面所が損傷するなどしたほか、遊歩甲板の後部が分断するなど

したが、のち両船とも修理され、同洗面所後側の長いすに腰をかけていたMが頭部を強打し、開放性頭

蓋陥没骨折などを負って死亡したほか、乗客22人が全治に2箇月問ないし2日間を要する打撲、捻挫

などを負った。

第5 本件後のB社及びE社両者の事故防止についての措置

B社は、本件後、関係当局から一般旅客航路事業の輸送に関する安全確保についての警告及び旅客船

の事故防止についての要望を受け、D社長以下関係役員、運航管理者及びA受審人に対してそれぞれ減

給処分を行ったほか、A受審人に対して謹慎処分を行い、運航管理者を専従とするなど運航管理態勢を

強化し、競合旅客船事業者との安全運航に係る件について協調に努め、運航基準経路の一部変更を行い、

船員及び陸員に対し、関係法令及び運航管理規程の周知徹底などを図り、基本的な教育訓練を毎月少な

くとも1回実施し、資質及び規律同上のため、関係機関等が開催する運航管理者及び船員の研修等に積

極的に参加させるよう一層努力することとした。

E社は、本件後、関係当局からB社に発せられたものと同じ内容の警告及び要望を受け、F社長及び

J運航管理者の減給処分、D受審人の謹慎処分をそれぞれ行い、経営体制を再検討して運航管理体制の

改善を図り、運航基準経路の一部を変更し、競合旅客船事業者との安全運航に係る件について協調に努

め、全社員に対し、従来毎月行っていた安全運航を確認させる集会の期間を更に短縮のうえ、内容を充

実して行う等の改善を行った。

(原因の考察及び航法の適用)

本件は、いえしま及びニューぼうぜの両船が、一般旅客輸送定期航路に従事し、家島諸島男鹿島を発

航のうえ、姫路港飾磨区に向け北上中、先航するいえしまが同港広畑航路入口を通過して間もなく、霧

のため視界が著しく狭められ、減速及び転針を行いながら飾磨航路を左側から右側へ横切ったのち、再

び同航路に入って関門に向かう態勢となり、また、ニューぼうぜが原針路、全速力のまま同航路の左側

からこれに入航し、同関門に向かう態勢となり、同関門で衝突したもので、原因及び航法の適用につい

て検討する。

1 いえしまにおいて濃霧となったのは衝突の約9分前で、前記関門をレーダーの映像で広く見て通過

するため、転針及び減速を行い、飾磨航路を斜航してその東側線より少し外に出たのち、衝突の1分半

少し前、衝突地点に向首する態勢で再び同航路に入り、極微速力前進としたとき、相手船が左舷正横後

4分の3点440メートルばかりとなり、相手船と衝突の危険のある特殊な状況となったが、直ちに機

関を停止するなどの措置を執らなかった。

2 ニューぼうぜにおいては、男鹿島発航時からいえしまを船首方向に認めながら後航し、霧となって

からは、その映像を常に右舷船首方向に見る態勢となり、同船の減速によって彼我の間隔が顕著に短縮

し、著しく接近することを避けることができない状況となったが、その速力を針路を保つことができる

最小限度の速力に減じることなく、衝突の1分ばかり前、相手船を右舷船首4分の3点340メートル

ばかりに見る態勢のとき左転して飾磨航路に入り、依然全速力のまま衝突地点に向け進行した。

3 両船は、飾磨航路によることを義務付けられており、これを遵守していたとすれば、目的地である

各専用桟橋がほぼ同一場所に設置されていて、少なくとも衝突の2分半前には両船との同航路内を航行

していたものと認められ、前後関係が明確となって互いの動向を憶断する余地は少なかったと考えられ、

同航路によらなかったことは、いずれも本件発生の原因となる。

ところで、前示のとおり、いえしまが同航路を斜航し、いったん航路外に出て再び航路に入ったのは、

衝突の1分半ばかり前で、また、ニューぼうぜが同航路に入航したのは、衝突の約1分前であり、視界

制限状態であったから、港則法第14条第1項の航路内の航法に関する規定を適用することはできず、

結局、海上衝突予防法第19条の視界制限状態における船舶の航法のみが適用され、両船がいずれも同

航法により適切な運航を行わなかったことが原因と認められるが、後方から著しく過大な速力でいえし

まに接近したニューぼうぜに、より適切な措置が望まれる場合であった。

(原因)

本件衝突は、いえしま及びニューぼうぜの両船が多数の旅客を乗せて定期航路に就き、家島諸島男鹿

島を前後して発航し、姫路港飾磨区に向かい、いずれも同港飾磨航路による進路としないで同港内を航

行中、霧となって視界が著しく狭められた際、ニューぼうぜにおいて、霧中信号を行うことも、安全な

速力とすることもせず、先航していたいえしまと著しく接近することが避けられない状況となったが、

その速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じてゆきあしを止めること

なく、著しく過大な速力のまま進行したことに因って発生したが、いえしまにおいて、霧となって視界

が著しく狭められた際、安全な速力とせずに続航中、後航するニューぼうぜと著しく接近する状況とな

り、衝突するおそれがあったが、直ちに機関を停止し、著しく接近することを避けることなく、やや過

大な速力で進行したこともその一因をなすものである。

(受審人等の所為)

受審人Dが、ニューぼうぜの運航に当たって定期航路に就き、家島諸島防勢島の防勢港を発し、同諸

島男鹿島タテノ浜に寄せたのち、多数の旅客を乗せて姫路港飾磨区に向かい、前路にいえしまを認めな

がら航行中、同港広畑区に差しかかったとき、霧となって視界が著しく狭められた場合、運航基準を遵

守して安全な速力とし、霧中信号の吹鳴を開始すべきであったのに、これを怠り、過大な速力のまま、

同信号を吹鳴することなく進行したばかりでなく、飾磨東、西南防波堤間の関門に向首する際、間隔が

顕著に縮まっていたいえしまと著しく接近することが避けられない状況となったのに、針路を保つこと

ができる最小限度の速力に減じ、必要に応じてゆきあしを止めることなく、著しく過大な速力で進行し

たことは職務上の過失であり、その所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5

条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月15日停止する。

受審人Aが、いえしまの運航に当たって定期航路に就き、家島諸島家島の真浦を発し、同島宮及び同

諸島男鹿島タテノ浜に寄せ、多数の旅客を乗せて姫路港飾磨区に向かい、ニューぼうぜを後方に認めな

がら航行中、同港広畑区に差しかかったとき、霧となって視界が著しく狭められた場合、霧中信号の吹

鳴を開始したが、運航基準を遵守して安全な速力としなかったばかりでなく、飾磨東、西南防波堤間の

関門に向首した際、間隔が顕著に縮まっていたニューぼうぜと著しく接近するおそれがあったのである

から、直ちに機関を停止し、著しく接近することを避けるべきであったのに、これを怠り、自船が先航

できるものと憶断し、やや過大な速力で進行したことは職務上の過失であり、その所為に対しては、海

難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の

業務を1箇月停止する。

指定海難関係人E社が、ニューぼうぜを運航に当て、防勢島防勢港と姫路港飾磨区との間の一般旅客

定期航路事案に従事し、運航基準を作成する際、往、復航とも姫路港飾磨航路に沿う針路で出入航する

ようにせず、飾磨西防波堤に接近してから出入りする経路を設定し、これを遵守させたばかりでなく、

視程を細分して規定した視界制限状態における同基準については、短時間の航海であったのであるから、

気象情報の収集を励行して運航状況を十分把握し、その遵守を容易にさせる情報を与えるべきところ、

これを船長の判断のみに任せていたことは本件発生の原因となるが、本件後、関係当局から同事業の輸

送に関する安全確保についての警告及び要望を受け、社長以下関係者の処分を行い、経営体制を再検討

して運航管理体制の改善を図り、運航基準経路の一部を変更するなどして安全運航に努めている点に徴

し、同社に対しては勧告しない。

指定海難関係人B社が、いえしまを運航に当て、家島と姫路港飾磨区との間の一般旅客定期航路事業

に従事し、運航基準を作成する際、往、復航とも姫路港飾磨航路に沿う針路で出入航するようにせず、

飾磨西防波堤に接近してから出入りする経路を設定し、これを遵守させたばかりでなく、視程を細分し

て規定した視界制限状態における同基準については、短時間の航海であったのであるから、気象情報の

収集を励行して運航状況を十分把握し、その遵守を容易にさせる情報を与えるべきところ、これを船長

の判断のみに任せていたことは本件発生の原因となるが、本件後、関係当局から同事業の輸送に関する

安全確保についての警告及び要望を受け、社長以下関係者の処分を行い、運航管理者を専従とするなど

運航管理体制を強化し、競合旅客船事業者との安全運航に係る件について協調に留意し、運航基準経路

の一部変更を行うなどして安全運航に努めている点に徴し、同社に対しては勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。